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ひらがげんないとりものちょう

平賀源内捕物帳

久生 十蘭

山王祭の大像

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,946 字 · 34 页

青空文庫

麻上下がくる。

何しろ、お曲輪も近い。年一度の天下祭が不浄の血で穢れたとあっては、まことに以て恐れ多い。なかんずく、年番御役一統の恐悚ぶりときたらなんと譬えようもない。

象は、あわてて麹町一丁目の詰番所傍の空地へ引込んで葭簀で囲ってしまい、ご通路の白砂を敷きかえるやら、禊祓いをするやら、てんやわんや。

さいわい片側だけの見物で、象の血を見た人数もあまりたんとではない。さまざまに世話役が骨を折り、舁役が怪我をしたのだと誤魔化してようやくおさまりをつけてホッと胸を撫でおろす。あれやこれやで小半刻。行列がようやくまた動き出す。

渡御、お練のほうは、これでどうやら事なくすんだが、これから先がたいへん。

呉服橋北町奉行所、曲淵甲斐守のお手先、土州屋伝兵衛。神田鍋町の氏子総代で麻上下に花笠。旦那のように胸を張って二十七番の山車に引き添っていた。

屋台車といっしょにお曲輪内へはいったが、そのうちに、麹町の象の曳物の胸から血が出たという噂が、誰の口からともなく風のように伝わってきた。

供奉のほうは放ったらかし、象を曳込んだという麹町一丁目の詰番所まで横ッ飛びに駆けてきて、ズイと葭簀の中へはいると、一足先に、そこへ来ていたのが、南町奉行所のお手付同心の戸田重右衛門。