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こうふくのはさみ
幸福のはさみ
小川 未明
「婦人界 6巻11号」1922(大正11)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,458 字 · 9 页
なぜなら、このごろ、父親は暗くなってから、酒が足りないといっては、町の酒屋まで酒を買いに、正吉をやったからであります。
「なあ正吉、酒を買いにいってこい。」
夜になると、はたして、父親はいいました。月もない暗い晩でありました。星の光が降るように、青黒い空に輝いていました。そして、風が吹いて、落ち葉が田の上を、カサカサ音をたてて飛んでいました。
もし、こんなときにいやだといったら、きっと、父親は「意気地なしめ。」といって、しかったでありましょう。正吉は、お母さんがおられたら、自分は、けっして、こんなさびしいめをみなくていいものをと思いますと、目の中に涙がわいてきたのであります。が、
「なあ、正吉は強いものな。いい子だからいってきてくれよ。」と、父親は、後ろ姿を見送りながら、いいました。
こう、父親にやさしくいいかけられると、正吉は、またなんとなく、父親をあわれに思いました。そして自分たちは、いつまでもこんなにさびしい日を送らなければならないのだろうかと、悲しくなりました。
正吉は、とぼとぼと町の方をさして歩いてゆきました。このあたりはもう日が暮れると、まったく人通りは絶えてしまったのです。