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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
松本泰『幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選』。同一底本的分册已合并为一书。收入:日蔭の街、P丘の殺人事件。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,797 字 · 107 页
坂口は思わず芝草の上に立竦んだが、靴音を忍ばせて物音の起った方向へ進寄った。
靴音はいつの間にか消えて了った。
闇の中を透すと、つい十数間先を、密に歩いて行く人影を見つけた。それより少し向うに二三の立木があった。男は中折帽子を冠って、右手に杖を持っていた。彼は立木の蔭でフト足を停めた。
見ると男の足下に長々と真黒な人影が横わっている。中折帽子を冠った男は、紛れもない伯父の姿であった。
五
坂口は霎時の間、闇の中に棒立になっていたが、次の瞬間に伯父は、北に向って走っている小径を、周章しく歩去った。坂口はフト我に返ると、その辺にまごまごしているのは危険であると感じてきた。共同椅子の前に倒れている人間を見究めないのは、如何にも残念であるが、それは婦人でない事だけは夜目にも慥かに判っていた。
「何だって伯父はこんな思切った事をやったのであろうか。エリスさんはどうしたろう。先刻人の馳けてゆく靴音が聞えたが、あの時の音がエリスさんであったかも知れない」
坂口は丘を馳下りるなり、道路のない雑木林の間を抜けて、一直線に公園の外へ出ようとした。一刻も早く人通りのある往来へ出て了おうと焦りながら、針金を亙した低い柵を越えて、ようやく池の傍へ出た。