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おさなきひ
幼き日
小川 未明
「少年倶楽部」1929(昭和4)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,784 字 · 8 页
「ああ、いいあんばいだ。」と、お母さんは、やっと脊中をたたくのをやめて、ほっとしました。
「どうか、すこしでも長く眠ってくれればいいが……。」と、自分の眠らなかったことや、疲れたことなどは、まったく、忘れて、すやすやと眠っている正ちゃんの顔をながめていました。
このとき、あちらから、らっぱの音が聞こえました。つづいて、パカ、パカという、馬蹄の音が、したのであります。
「あ、兵隊さんが、通るのだな。坊やは、起きなければいいが。」
お母さんは、気をもみました。ちょうど、窓の外の往来を、兵隊の列が通るのであります。平常は、勇ましいらっぱの音も、また、坊やが元気でいて見たなら、さぞ喜ぶであろうお馬のひづめの音も、このときばかりは、にくらしくなりました。
「どうぞ、坊やが、目をさましませぬように……。」と、お母さんは、口のうちで、神さまに念じていました。
とうとう坊やは、目をさまさずに、兵隊の列は通過してしまいました。ほがらかならっぱの音も、なんとなく勇ましい馬のひづめの音も、だんだん小さく遠くなってしまいました。
「やれ、やれ。」と、お母さんは、いって、家のなかをかたづけにかかりました。