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ようねんじだい
幼年時代・晩夏
堀 辰雄
堀辰雄『幼年時代・晩夏』。同一底本的分册已合并为一书。收入:幼年時代、三つの挿話、花を持てる女、朴の咲く頃。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,965 字 · 169 页
その時くらい爺たちが私たちに向って腹を立てたことは今までにもなかった。爺たちは二人がかりで、何処までも私たちを追いかけて来た。――そのときは私たちも何んだか興奮して、墓と墓の間をまるで栗鼠のように逃げ廻りながら、口々に叫んでいた。
「赤鬼やあい……青鬼やあい……」
昼顔
その小さな路地の奥には、唯、四軒ばかり、小ぢんまりした家があるきりなのである。ちょうど水戸様の下屋敷の裏になっていて、いたって物静かなところである。
その路地をはいって右側には、彫金師の一家が住んでいる。そのお向うは二軒長屋になっていて、その一方には七十ぐらいの老人が一人で住んでいる。五六年前に老妻を亡くなしてから、そのままたった一人きりで淋しいやもめ暮らしをしているのである。その隣りには、お向うの彫金師の細君のいもうと夫婦が住んでいる。亭主は、河向うの鋳物工場へ勤めているので、大抵毎日その細君は一人で留守居をしている。その路地の突きあたりの家は、そこ一軒だけが二階建になっていて、主人はやはり河向うの麦酒会社に勤めている。あとにはその老母とまだ若い細君が静かに留守居をしているきりである。