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ひろばのベンチ
広場のベンチ
豊島 与志雄
「文芸」1951(昭和26)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,998 字 · 15 页
あの青服の少女も、農家の娘だった。
その少女の幻影が、なぜかくも身に親しいものとなったのか、十内自身にも分らなかった。贖罪の心からか、神を想う心情からか、そのようなことは十内の思惟を超える事柄だったが、とにかく、あの少女の幻影を安らかに埋めるには、伯母の膝許が最も好適の地と感ぜられた。
十内が寄寓してる家の近くで、この頃、毎日早朝、きまって五時に、太鼓の音が聞えた。神社か、神官の家か、または個人の邸宅か、それは分らなかったが、みそぎ祓いでもしているのであろうか、ドーン、ドーン、と初めは緩かに、それから次第に急に、ドンドン、と続き、それが三度ばかり繰り返されるのである。何の調律もないただ単調なだけのその音が、へんに十内の心に泌みた。
その太鼓の音は、ただ平和な民衆の気持ちに通じるものがあった。
伯母が暮してる田舎では、盆踊りの囃に、三味線ではなく太鼓が使われるのだった。太鼓の音につれて、老若男女が夜更けまで踊り楽しみ、その円舞の中央に明るく焚火が燃え続けるのである。
十内は広場のベンチから立ち上り、上衣に露の玉となってたまってる雨滴を払い落した。