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しょみんのたべもの

庶民の食物

小泉 信三

「あまカラ 新年号 第六十五号」甘辛社、1957(昭和32)年1月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,974 字 · 4 页

青空文庫

、飯が食えるということが、人類にとってどんなに重いことであるかというようなことを、考えさせられる。サンマから佐藤春夫の詩を憶い出していうのではないが、ひとはどうか、私は食事のときに自分の心が感じやすくなっているのを自覚する。よく食事をしながら、人の哀れな身の上や、健気な振舞の話をきいて、涙を落とすことがある。唾腺と涙腺とはなにか特別の関係があるものか。きいてみたことはないが、昔から、箸を投じて落涙するというような話があるから、これは私一人ではないのかもしれぬ。

少年時代住んでいた三田の家の、少し離れた並びに、昔、福沢先生を頼って故郷の中津から出てきたという、豊前屋という相当な米屋があり、夕暮など、近所の裏長屋のおかみさんが、味噌漉を前掛けの下にかくすようにして、その敷居を跨ぐのを、私は見て知っていた。米の一升買いということの意味を、少年の私は解していた。どうかすると、わが家の食事のときに、そんな景色を想い出して、急に喉がつまり、涙の味のする飯のかたまりを、無理に嚥みこんだような記憶がある。

私は政治上あまり好んで民主主義を振り廻すほうではないが、右に書いたような意味で、食物に対する好みは民主的といえるであろう。