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きゅうどうちゅうそでん

弓道中祖伝

国枝 史郎

「キング」1932(昭和7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,647 字 · 19 页

青空文庫

取り廻された築地も崩れ、犬など自由に出入り出来そうであった。旅宿といったような造りではなかった。

(これは変だな)と思ったものの、そのことがかえって若い武士の、好奇の心をそそったらしく、立ち去らせる代わりに門を叩かせた。

と、叩いた手に連れて、門が自ずと少し開いた。

(不用心のことだ)と思いながら、若武士は門内へ入って行った。鬱々と繁っている庭木の奥に、いかめしい書院造りの館が立っていた。桁行二十間、梁間十五間、切妻造り、柿葺の、格に嵌まった堂々たる館で、まさしく貴族の住居であるべく、誰の眼にも見て取れた。しかし凄じいまでに荒れていて、階段まで雑草が延びていた。

森閑として人気もない。勿論燈火も洩れて来ない。何となく鬼気さえ催すのであった。しかし応仁の大乱は、京都の市街を戦場とした、市街戦であったので、この種の荒れ果てた館などは、どこへ行っても数多くあり、珍しいものではなかったので、若武士は躊躇しなかった。

「ご免下され、お取次頼む」

こう高声で呼わった。が、返辞は来なかった。そこで若武士はさらに呼んだ。三度四度呼んで見た。が、依然として返辞はなかった。