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かげのないはんにん

影のない犯人

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第七巻第一二号」1953(昭和28)年9月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,032 字 · 23 页

青空文庫

しかし、いかにシリメツレツでも前山一作なる人物は彼の父である。その一作氏に一服もり一刀両断にしてやりたいとは、根が軽率な狂六にしてもひどすぎる言葉であるが、次なる言葉をきいてみれば、さてはそうか、とうなずける理由はあったのである。

「ヘヘエ、光一クン、知ってるぜ。花子夫人を狙っているのは、これなる三先生だけじゃないからね。未亡人もオヤジの遺産のうちだから、相続してもフシギじゃないと思いこんでるらしいじゃないか」

「むろん先生の御説には賛成です。彼女は稀なる美女ですよ。オヤジにはモッタイないな。かつ、また、甚だしく色ッぽい女性ですね。しかも彼女は自己の多情なることを自覚していないです」

女性に関してはスレッカラシの審美家であった。彼は老いたる友人たちを裏切る意志はなかったが、ただ真実を伝える意味に於て(つまりその真実が彼のお気に召していたせいでもあるが)妹のマリ子のみならず、当の花子夫人に向って、三先生の言説をチク一報告に及んだのである。

「ハッハッハ。面白かったです。結局、狂六先生が、最も純情の如くで、最もずるいですね。自分がどうするということを言わずに、並木先生が一服もり、玄斎先生が夜更けに一刀両断にしたら、と云ったのです」