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いようへん
影を踏まれた女
岡本 綺堂
岡本綺堂『影を踏まれた女』。同一底本的分册已合并为一书。收入:異妖編、月の夜がたり。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,110 字 · 46 页
「してみると、あいつ北条にあやかって、今に天下を取るかな。」と、笑う者もあった。
「天下を取らずとも、組頭ぐらいには出世するかも知れないぞ。」と、羨ましそうに言う者もあった。
こんな噂が小ひと月もつづいているうちに、それが叔母の勤めている松平相模守の屋敷へもきこえて、一度それをみせてもらいたいと言って来た。その時には、叔母はもう全快していた。ほかの屋敷とは違うので、伊四郎は快く承知して、新大橋の下屋敷へ出て行ったのは、九月二十日過ぎのうららかに晴れた朝であった。鱗は錦切れにつつんで、小さい白木の箱に入れて、その上を更に袱紗につつんで、大切にかかえて行った。
叔母は自分が一応検分した上で、さらにそれを奥へささげて行った。幾人が見たのか知らないが、そのあいだ伊四郎は一時ほども待たされた。
「めずらしい物を見たと仰せられて、みなさま御満足でござりました。」と、叔母も喜ばしそうに話した。「これはお前の家の宝じゃ。大切に仕舞って置きなされ。」
これは奥から下されたのだといって、伊四郎はここでお料理の御馳走になった。彼は酔わない程度に酒をのみ、ひる飯を食って、九つ半(午後一時)過ぐる頃にお暇申して出た。