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かれはむかしのかれならず

彼は昔の彼ならず

太宰 治

「世紀」1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,274 字 · 57 页

青空文庫

原っぱの霜は清浄であった。月あかりのために、石ころや、笹の葉や、棒杙や、掃き溜めまで白く光っていた。

「友だちもないようですね。」

「ええ。みんなに悪いことをしていますから、もうつきあえないのだそうです。」

「どんな悪いことを。」僕は金銭のことを考えていた。

「それがつまらないことなのですの。ちっともなんともないことなのです。それでも悪いことですって。あのひと、ものの善し悪しがわからないのでございますのよ。」

「そうだ。そうです。善いことと悪いことがさかさまなのです。」

「いいえ。」顎をショオルに深く埋めてかすかに頸をふった。「はっきりさかさまなら、まだいいのでございます。目茶目茶なんですのよ、それが。だから心細いの。逃げられますわよ、あれじゃ。あのひと、それはごきげんを取るのですけれど。私のあとに二人も来ていましたそうですね。」

「ええ。」僕はあまり話を聞いていなかった。

「季節ごとに変えるようなものだわ。真似しましたでしょう?」

「なんです。」すぐには呑みこめなかった。

「真似をしますのよ、あのひと。あのひとに意見なんてあるものか。みんな女からの影響よ。文学少女のときには文学。