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かれはだれをころしたか
彼は誰を殺したか
浜尾 四郎
「文藝春秋」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,147 字 · 27 页
実は、結婚後ますます親しく仲よくなって来たのじゃないかとさえ感ぜられる。
彼等を近づかせて居るものは表向きは音楽だった。ピアノのすきな綾子の所へ、ヴァイオリンが巧みな吉田がやって来て、この二つの楽器を合わせて楽しむことは当然のことだった、少くとも綾子と吉田にはそう思われた。
しかし、中条にとっては、夫が全く除外されているという時の状態は堪らなく不愉快だったのである。
吉田には兎も角、綾子にはこの夫の不快が判らない筈はなかった。けれども、綾子はそんなことを何とも思わなかった。こんなことを不快に思っている夫をもつことを恥とすら考えた。だからますます平気で吉田をよんでは合奏した。彼女は賢かった。成程中条は弱気な哀れな夫だったかも知れない。しかし彼女は火と戯れていることに気がつかなかった。こういう性質の男は時とすると犯罪に対しては、非常に勇敢になるものだからである。
中条と雖も音楽は嫌いではなかった。はじめのうちは二人の演奏にひたることも出来た。
けれども最近に至っては、彼は全く不快な気持で二人を客間に残して自分の部屋にもどるのが常となった。
彼がいなくなると彼等は一層仲よく弾いてるような気がした。