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おほりばたさんだい

御堀端三題

岡本 綺堂

柳のかげ「文藝春秋」1937(昭和12)年8月、怪談「モダン日本」1936(昭和11)年9月、三宅坂「文藝春秋」1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,863 字 · 12 页

青空文庫

その後いくたびの変遷を経て、今日は昔に三倍するの大道となった。街路樹も見ごとに植えられた。昔の凉風は今もその街路樹の梢に音づれているのであろうが、私に凉味を思い起させるのは、やはり昔の柳の風である。

二 怪談

御堀端の夜歩きについて、ここに一種の怪談をかく。ただし本当の怪談ではないらしい。いや、本当でないに決まっている。

私が二十歳の九月はじめである。夜の九時ごろに銀座から麹町の自宅へ帰る途中、日比谷の堀端にさしかかった。その頃は日比谷にも昔の見附の跡があって、今日の公園は一面の草原であった。電車などは勿論往来していない時代であるから、このあたりに灯の影の見えるのは桜田門外の派出所だけで、他は真暗である。夜に入っては往来も少い。時々に人力車の提灯が人魂のように飛んで行く位である。

しかもその時は二百十日前後の天候不穏、風まじりの細雨の飛ぶ暗い夜であるから、午後七、八時を過ぎると殆ど人通りがない。私は重い雨傘をかたむけて、有楽町から日比谷見附を過ぎて堀端へ来かかると、俄にうしろから足音がきこえた。足駄の音ではなく、草履か草鞋であるらしい。その頃は草鞋もめずらしくないので、私も別に気に留めなかったが、それがあまりに私のうしろに接近して来るので、私は何ごころなく振返ると、直ぐ後ろから一人の女があるいて