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ふくしゅう
復讐
豊島 与志雄
「風雪」1950(昭和25)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,806 字 · 20 页
この人は時たま夢に出て来ることがある。上体しか分らず、なにか仄暗い不吉な感じである。不運とか災難とかいうようなものを、私に予告したがってるかのようだ。これは用心しなければなるまい、とぼんやり思いながら、その夢の消え去ったあとを追っていると、また眠ったらしく、こんどは、嘗て別れたまま消息不明になってる愛人のことを夢みた。これも時たま夢に出てくるひとで、立ち姿の背がすらりと高く、じっと遠くを眺めている。何かを待ちうけてるようで、そして、温いが淋しい感じだ。なにか言ってやりたい、と私は思うのだが、その言葉が見つからないうちに、夢は消えてしまう。
そのようにして、いろいろな人を夢の中に呼び出したのであるが、それらの夢の中で、どういうことが起ったか、或は何も起らなかったか、所詮は夢のことだから、茲に述べるにも及ぶまい。然し、やがて妙なことになってきた。
こんどは、私自身が夢みられてるのだ。彼女が、はっきり言えば照代が、私を夢にみてるのである。瞼をほんのりと赤らめ、かすかに酒の香のする寝息で、すやすやと、真赤な箱枕に頬を押しあてて眠りながら、私を夢にみている。