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びしょう

微笑

豊島 与志雄

「雄弁」1919(大正8)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,995 字 · 43 页

青空文庫

と私は村瀬にいった。

斯くしてS――駅で十二時すぎに落合った者には、種々な人が居た。重に中流以下の階級の者が多かったが、私達はなるべく自分と交渉がありそうな者を択んだ。私達の言葉をよく受け容れてくれる者は却って見すぼらしい服装をした者に多かったが、社会の階級というものが如何に親しみや距離やを人間の間に置いてるかを、私は感じた。その上、労働者などに話しかけることに、私は一種の自責の念を感じたのである。これは自分でも何故だかよく分らなかったが、然し実際の感情だった。と云って私は、自分のそういう行為が決して下らないものではないとも信じていた。本当に人間の心が素直である時には、私達のやり方は凡ての人から是認さるべきものと思っていた(然しこれは後からつけた理屈かも知れなかったが)。

そして私達は、人間の心が如何に卑屈に出来てるか、如何に絶えず用心をし絶えず脅かされてるか、如何に敵意に満ちているかを、まざまざと見た。初めに言葉をかけると、向うの人も大抵は短かい返事をした。然し二度目に言葉をかけると、多くは返事もしないで、妙な陰険な眼付で見返した。夜更けであるのと、あたりが薄暗いのと、寂しい小駅であるのと、それがいけなかったのかも知れない。