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びしょう

微笑

豊島 与志雄

「雄弁」1919(大正8)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,995 字 · 43 页

青空文庫

多少危険だという気もしたが、どうせそれ位までゆかなくては腹の虫が納まらないような気もした。これ位のことはしてやってもいいとも考えた。またうまくいって彼奴と一緒に笑い出して、一寸そこいらまで案内して、うち解けながら談笑するのも愉快だと考えた。その男を使ってる「閑人」も惨めだが、その男は一層惨めで、救済してやる必要がある、とも考えた。

私は次の金曜日を待った。

所がその金曜日になると朝から雪が降り出した。村瀬にきき合せようと思ったが、彼の番地を記憶していないので、無駄足をしても大した損ではないと思って出かけた。

雪は小降りではあったが、夜になっても止まなかった。往来は泥濘が深く、屋根や木の枝は白くなっていた。襟巻を用いない癖の私は、マントの襟に顔を埋めて道を急いだ。

「まさか今日は来まいと思っていたよ。」と坂口は云って笑いながら、快く私を迎えてくれた。

「却って風流でね。」と私は答えた。

其晩、私はどうしたのか敗け続けた。

「今日は君どうかしてるんじゃないか。」と坂口は云った。

自分では気がつかなかったが、確かに私は何処か落付かないでいたと見える。

十二時を打つと例の通り立ち上った。