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びしょう
微笑
豊島 与志雄
「雄弁」1919(大正8)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,995 字 · 43 页
十二時すぎには乗客はいつも少なかった。特に反対の方へ行く電車が先に来て半数ばかりに取り残される時には、夜更けの寂しさが俄に感ぜられた。皆知らず識らずに歩廊の端に歩み寄って、其処に一群れをなして佇みながら、自分達の電車のくるのを待っていた。
最初はちらちらと遠くに青いスパークが見え、次に明るいヘッドライトにレールが輝らし出され、その上をすうっと電車が走って来て、瞬く間に車台が自分の前に止る時、私はほっと蘇るような心地がした。腰掛は大抵空いていた。まばらな乗客は皆黙ってぼんやり眼を開いていた。首を垂れて眠ってる者もあった。皆が安心しきってるようで、また疲れてるようであった。私はクッションの上にどかと身を落して、白い天井についてる電灯の光りをまじまじと見上げながら、煙草を吸った。そして遠い安らかな旅に出たような落付きを感じた。寒い闇夜をついて走る響きが、一層車室の中の明るみを淋しい夢のような気分にした。停車場へ電車が止る毎に、幾人かの人が出たりはいったりした。皆静かに黙っていた。車の軽い動揺に全身の筋肉が心地よくたるんで、眼がぼんやりしてきて、私はついうとうととすることもあった。