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こころにうずくよっきゅうがある

心に疼く欲求がある

宮本 百合子

「中央公論」文芸特集号第四号、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,908 字 · 24 页

青空文庫

しかし、この場合、ソヴェトの人々の常識では狂気としか判断されない事実を、スタインベックは、神の怒りにかけて現実に見つつあるのである。そのような巧智な話術で彼がすりぬけた――というよりも、集団として「ロシアの問題」にかかわる彼の同国人をすりぬけさせてやった、その線のところにこそ「怒りの葡萄」ののちに来るテーマがひそんでいるであったろうに。――

彼が「一人の男に握られた権力やその永続を極度に恐れ憎むアメリカ人にとって」、スターリンがどこでも必ず顔を出している(肖像画や写真や彫像で)ことは、「恐怖すべきことであり、嫌悪すべきことである」と云っていることも現代のアメリカ市民の心理にある特色を示していて興味ふかい。現在のアメリカ人にとってきらいなことは、きらいなことだときめるだけですむかのように、それから先の追究をすてているところに、アメリカの明るさと同時に異様な主体性の没却を示している。

そして、巨大な現象をつかみながら、作家の主体的角度が消失しているという点こそ、アメリカ現代文学の無気味な点ではなかろうか。「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラの強烈な性格と生活力にかかわらず、バトラーの抜け目なさにかかわらず、彼らのところで経験されたのは状況と境遇とにすぎなかった。