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こころのアンテナ

心のアンテナ

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,973 字 · 27 页

青空文庫

偶大阪から帰った同業が訪ねて来て、そんな噂をして行った後、

「おれもあのまゝ彼方にいればなあ」

と師匠がつい述懐した。

「彼方にいれば何ですか?」

と奥さんが直ぐに突っ込んだ。師匠は単に此方と彼方では芸の需要が違うという意味だったが、奥さんは気を廻し過ぎる。先頃から多少過敏になっていた。

「何てこともないよ」

「いゝえ。何てこともあるからでしょう? あなたは大阪の師匠の娘さんが未だ忘れられないのよ」

「馬鹿を言え」

「何うせ馬鹿ですよ、私は。そんなこと、初めから分っているじゃありませんか? 重役になる人を断って、見す/\あなたのところへ来たくらいですから」

「憤っているのかい? お前は」

「腹が立てば、馬鹿でも憤りますよ」

「詰まらない」

「何が詰まらないんですか? あなた、詰まらない次第を聞かせて戴きましょう」

「勝手にしろ」

と師匠が声を励ましたものだから、側に控えていた銀二郎君は、

「まあ/\、師匠」

と遮った。

「何だ?」

「まあ/\」

「お前はお蔦の肩を持つのか?」

「いや、決して」

「それなら黙っていなさい」

「へい」

「あなた、次第を聞かせて戴きましょう」

と奥さんが繰り返した。