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しんれいさつじんじけん
心霊殺人事件
「別冊小説新潮 第八巻第一四号(創作二十二人集)」1954(昭和29)年10月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,557 字 · 52 页
――お父さんの刺された気配は
――全然
――あなたと兄さんだけが後方に坐っていたのですね
――兄は立ってたんですよ。坐れば見えませんから。立ってたから後でよかったんでしょうね
九太夫の証言
吉田八十松は名手の名のある人ですが、旅先のことで人をアッと云わせる芸はできない相談だったのですね。それでもわずかな材料を生かして意表をつく苦心を払ったようです。たとえば中央にテーブルをすえ、下にはジュウタン、側面と天井には暗幕をはりめぐらして、いかにもテーブルをあげてみせるぞと云わぬばかり、ジュウタンの下や暗幕の上から側面すべてコードや紐の仕掛け充分の様子にこしらえておいたのです。そのくせ、その仕掛けは何一つほどこしておかなかったのです。これはたぶん見物の者がそれを改めることを予期して裏をかいたのかと思いますが、あるいは被害者からでも私が参観にくることを前もって知らせをうけて意表にでた用意かも知れません。したがってボックスの中からカラクリをやる手法も用いません。ボックスの内から外へ通じる仕掛けは一切ほどこさぬ用心をしていたのです。したがってあの人が行ったのは縄ぬけして前面へでて曲芸をやることだけでした。