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いかりのむし
怒りの虫
豊島 与志雄
「群像」1951(昭和26)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,457 字 · 24 页
「あなたにとって、不愉快な話だってことはわかっております。けれど、愛情がおありでしたら、心配して下すってもよろしいと思いますわ。」
「そりゃあ、心配していますよ。然し、いくら心配しても、どうにもならないし……。」
「成り行きに任せると仰言いますの。」
「いや、なんとか打開しなければなりませんがね……。」
「あなたのお気持ちを、今日は、はっきり聞かせて頂けませんか。」
「それは、前から言ってる通りですよ。」
陰欝な気分が次第に苛ら立ってくるのを、木山はむりに抑えた。そして酒を飲んだ。由美子も口を噤んで、猪口を手にした。
もともと、ちょっとした火遊びみたいな軽い気持だったのが、次第に深みへはまり込んだのである。肉体の関係がついたのがいけなかった、青年同志のようにぱっと燃え立つのでもなく、老人同志のように心底から寄り添うのでもなく、ただじりじりと互に喰い込んでいった。そこへ、別居していた塚本が、愛人と別れ、自家へ帰って来るという事態が持ち上った。素人のくせに手を出した漁業に大失敗をして、危く倒産は免れたが、家産の大整理をしなければならなくなったものらしい。帰って来れば、自然、由美子と同棲することになる。