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いかりのむし
怒りの虫
豊島 与志雄
「群像」1951(昭和26)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,457 字 · 24 页
ところが近頃、おかしな症状が起ってきた。物を食べると、胃袋の中のどこかに閊えるのである。汁物までが閊えるのである。そして暫くすると、その閊えたものが、胃袋の底へ、ごっとん、ごっとん、さがってゆく。そして初めて胸が開ける思いをする。柔かい物ばかりでなく、汁物までがそうだから、おかしい。どこに閊えるのか分らないが、確かに閊えて、そしてやがて、ごっとん、ごっとん、下ってゆくのである。医者にみせても原因は分らないし、この節ではもう諦めて、ごっとん、ごっとんを、却って楽しみに待つのだった。
その話を、按摩はただ座興にしたらしいが、自分で胃弱を悩んでる八重子には、へんに気味悪く響いた。
「いやですわ、胃の中でごっとんごっとん音がするなんて。胃袋が瓢箪みたいにくびれたんでしょうか。」
八重子は眉間に皺を寄せていた。
木山は頭を拭きながら言った。
「ばかな。神経のせいだろう。」
「神経のせいにしても、そうなったら、どうなんでしょうね。わたくし、ぞっとしますわ。」
「だから、医者にみせなさいと、いつも言ってるじゃないか。」
「あなたがおみせなさるなら、わたくしもそうしますわ。