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いかりのむし

怒りの虫

豊島 与志雄

「群像」1951(昭和26)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,457 字 · 24 页

青空文庫

」

なおくどくどと、弁解の言葉だった。

「そんな下らない用は打ち切ってしまえ。僕は今日は行かないからね。」

二十分ほども怒り散らして、木山は電話口を離れた。

彼は書斎に上ってゆき、茶の間に下りてき、庭をぶらつき、それからまた酒を飲みだした。眉をしかめながら、黙々として飲んだ。

女中を呼んで、すぐに風呂をわかすように言いつけた。

そして時折、小刻みに頭を震わしてるのだった。

八重子は慴えたように、彼の様子をひそかに見守るばかりで、口が利けなかった。

彼はなんだか皮肉な笑みを浮べて、八重子に言った。

「僕はやはり、お前を愛していたようだ。勘弁なさい。医者にもかかる。お前も医者にかかれよ。胃袋のなかの、ごっとんごっとんか。」

彼はまた黙りこんで、酒を飲んだ。それから、少し気分がわるいから昼寝をすると言って、布団を敷かした。

「風呂がわいたら起してくれよ。」

八重子は暫くそばについていたが、寝息の音が聞えてきたので、そっと室から出た。

一時間ばかりたった後、風呂がわいたので、八重子は木山を起しにいった。木山は少しく布団から乗り出し、半眼を見開き、片手を畳に投げ出して、もう息絶えていた。