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おもいちがい
思い違い
山本 周五郎
「朝日新聞 PR版」1964(昭和39)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,487 字 · 5 页
とすすめている。「米飯はいけません」と忠告したあとで、他の投稿者には「米は日本人にとって古くからの主食である」と賛成している。昔は一日に生ま水を一升飲めという医学者があり、流行したらしい。同時に「生ま水を多飲することは腎臓の大きな負担となり、百害あって一利なし」といきまく医学者もあった。これらは純粋な生理医学の判断に、個人的経験の積が加わるからであろう。そしてどっちにしろ、死なないやつは生きるのである。
私の文学青年時代からの友人に、石井信次という紳士がいた。石井家はこの市(横浜市)でも指折りの旧家であり大地主であり、彼自身はY校出身の秀才で、ニューヨーク・スタンダード石油会社の課長にまで昇進した。酒もタバコもたしなまず、その生活は極めて規則的、かつ栄養学の指示を外れることがなかった。まことに紳士の範とすべき存在であったが、四十二歳のとき胃潰瘍で亡くなってしまった。
――死んでみてから彼は怒ったにちがいない、と私は友人たちによく話したものだ。タバコも酒も飲まず、不摂生もしないのに胃潰瘍で死ぬとはなにごとか、人をばかにするなってさ。
私は大森にいたじぶんから、荒暴に酔って身心耗弱状態におちいることを繰り返してきた。