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あやしのもの
怪しの者
国枝 史郎
「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,259 字 · 25 页
貴殿のお役目遂げられたも同然、お喜びなされ、ご安心なされ!」
「火事?……大船が?……燃えている?」
「拙者が放火いたしたからでござる」
「貴殿が……お身内の貴殿が?」
「われらが主君成瀬隼人正、西丸様お企てを一大事と観じ、再三ご諫言申し上げたれど聞かれず、やむを得ず拙者に旨を含め……」
この時船大工たちがお小夜様を連れて、林の奥から出て来ました。
「お柳、お小夜様を、鶴吉殿へ!」
わたしの相棒のお柳は、お小夜様の手を取って、鶴吉の側へ連れて行きました。お小夜様は恐怖と悲哀とで、生きた空もないようでございましたが、でもベッタリと地へすわると、鶴吉の項を膝の上へのせ、しゃくり上げて泣きました。鶴吉を愛していたのですねえ。
宗家相続の問題以来、将軍吉宗様と尾張家とは、面白くない関係となりまして、宗春様が年若の御身で、早くご隠居なされましたのも、そのためからでございますし、ご禁制の大船を造られましたのも、吉宗様に対する欝忿晴らし、そのためだったように思われます。そのご禁制の大船ですが、もうあの時には九分がたできていて、立派なものでございました。ご主君から渡された竹筒仕込みの地雷で、わたしが焼き払いさえしなかったなら、完成したに相違ございません。