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かいきいっせきばなし

怪奇一夕話

岡本 綺堂

「中央公論」1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,745 字 · 18 页

青空文庫

「どうも不思議だな。お前はもう死んでしまった筈だが……。」

「はい。十年前に死にました。」

「そうすると、おまえは幽霊か。」

「左様です。」と、李は笑いながら答えた。「しかしびっくりなさるには及びません。幽霊だって自由に娑婆へ出て来られます。私のような幽霊はそこらに幾らも歩いていますよ。」

「それがお前に判るか。」

「判ります。現にここの店にも一人います。普通の人間には判りますまいが、わたくしが観れば、それが生きている人か幽霊か、すぐに見分けられます。まあ、表へ出て御覧なさい。」

こうなると一種の好奇心も手伝って、彼は李と共に往来へ出た。時は白昼で、町は賑わっている。その混雑のあいだを通り抜けながら、李は摺れ違う人を指さして小声で教えた。

「あの男も幽霊です、あの女も……。」

およそ七、八町を行くあいだに、李は男女十人あまりを教えたので、その人は顫えあがった。早々に李に別れて帰ったが、その後は人ごみへ出るのが怖ろしくなって、昼も滅多に外出しなかったという。

これでは全く怖ろしい。迂濶に銀ブラも出来ないことになる。カフェーへ這入れば女給の幽霊あり、デパートへ這入ればマネキンの幽霊あり、それが普通の人間の眼には見分けられないと云うのでは物騒千万である。