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あしのうら

怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像

蘭 郁二郎

蘭郁二郎『怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像』。同一底本的分册已合并为一书。收入:足の裏、穴、息を止める男、腐った蜉蝣、幻聴、孤独、舌打する、植物人間、蝕眠譜、自殺、鉄路、脳波操縦士、古傷、鱗粉。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,233 字 · 223 页

青空文庫

た。

さて、そんな、ひどく無為のうちに、心の落著かぬ日を、この海岸に来て一ト月余りも過した時であろうか。

その黄昏の散歩の時に、何時とはなく、一人の男が現われて来たのだ。

その男は、盲縞のつかれた袷に、無造作に帯を巻きつけ、蓬のような頭の髪を海風に逆立たせて、そのせいか、際立って頬骨の目立つ顔を持った痩身の男であった。

尤も、考えてみれば、私がその男に気づいたのは、散歩に出た最初の時からであったらしく、それが、いつもこの男も私と同じ時刻に、海岸を散歩するものと見えて、人ッ子一人いないこの海岸に、彼の蹌踉とした姿のあることだけが、さもあたりまえのように、知らず知らず思われていたのだ。

『やあ――』

はじめに口を切ったのは、その男であった。それは十年も前からの友人に、ふと道で往きあった時のような、極く自然な言葉であった。尠くとも、私にはそう感じられた。それは全然の初対面という訳ではなく、前からの顔見知りだったせいかも知れない――。それで、

『やあ――』

私も、すらすらと返事をして、こっくり頭を下げた。だがその次の言葉が、私を驚かせた。

『失礼ですが、あなたはツベルクローゼじゃありませんか』