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おそろしきさくご
恐ろしき錯誤
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页
この話を聞いて、僕は、やっぱり妙子は気が狂ったのではなかったと思った。確かに何か重大な理由があって、火中に飛び込んだのに相違ないと思った。
『それにしても、妙子の側まで行って、すぐにどっかへ居なくなった男というのは、一体何者だろう』と僕が云うと、越野は声を落して、真剣な目附で、『それについて思い当ることがある』と云うではないか。……越野はあの時、僕の荷物を肩に担いで走りながら、ふと一人の男に擦れ違ったのだった。が、ハッと思って振返ると、もうその男は、沢山の弥次馬の中へまぎれ込んで、姿が見えなかった相だ。越野はその男の名前を知らせて呉れたが、君はそれが誰れだったと思う。僕とも、越野とも、至って親しい、古い友達なんだが、……その男は、なぜ友達の越野に逢って、挨拶もしないで、逃げる様に跡を暗ましたのだろう。僕の家が焼けているというのに、見舞にも来ないで行って了ったのだろう。これについて、君は一体どんな風に考えるね」
北川氏の話は、段々中心に触れて行くのだった。
野本氏は相変らず一言も口を利かないで、一種異様の表情を以て、北川氏の雄弁に動く口のあたりをじっと見つめていた。