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おそろしきさくご
恐ろしき錯誤
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页
あらゆる神経が両眼に集中した。そして、野本氏の表情を、どんな細い点までも見逃すまいと努力した。死の様な沈黙が続いた。
野本氏は可也長い間メダルを見つめていた。
彼は、その蓋を開いて、中の写真を確めようともしなかった。それは、そんなことをして見るまでもなく、余りに明白な事実として野本氏の胸を打ったのに相違なかった。……彼の表情は段々空虚になって行った。殊に彼の目は、視線丈はメダルに注いでいたけれど、何か外のことを深く深く思い込んででもいる様に、まるでうつろに見えた。やがて、彼の頭は、そろりそろりと下って行った。そして、遂には、彼はチャブ台の上に俯伏して了ったのだった。その瞬間、北川氏は彼が泣き出したのではないかと思って、ハッとした。だが、そうではなかった。
野本氏は、あまりにひどい心の痛手に、最早や永久に起上ることの出来ない人の様に、俯伏したまま動かなかった。
北川氏は、もうこれでいいと思った。
勝利の快感で喉が塞がる様に思われた。それ以上話を続ける必要はなかった。仮令あっても、北川氏にはもう口が利けなかった。彼はく様にして立上った。
そして、俯伏したままの野本氏を後目にかけてすっと座敷から出た。