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おそろしきさくご
恐ろしき錯誤
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页
北川氏は、大切に腹巻の中へ入れて行ったものを、二度ともその儘持ち帰らねばならなかった。彼は今、その不用に帰した二つのメダルを眺めているのだった。
「野本の奴、こんなトリックがあろうとは、まるで想像も出来ないだろう。ヘヘヘ、どうです。何とうまい手品でしょうがな。ところで一つ種明しを致しましょうか。さあ御覧なされ。手品の種というのは、この二つの金メダルで御座る。この中には一体何物が入っていると御思召す。分りますまい? では申しますがね。この一つには松村先生の写真、も一つには井上先生の写真が、ちゃんと入っているのですよ。野本先生の写真はもうここには……」
北川氏は、ふと台詞めいた独語を止めた。
彼は心臓がスーッと喉の方へ上って来る様な気がした。彼の顔が白紙の様に白くなった。今にもメダルの蓋を開こうとしていた彼の手は、突然、えたいの知れぬ恐れの為にバッタリその動作を中止した。
そして恐怖に耐えぬ彼の瞳がじっと空を見詰めた。
「俺はどんな細い点までも、注意に注意して事を運んだ積りだ。併し、この不安はどうしたというのだろう。何かとほうもない間違いをしていやしないかしら、お前は今、その肝心の点丈けがどうしても思出せないではないか。