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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
「まさか西一郎が、千鳥を襲撃したのじゃあるまいな」と課長は独り言をいった。
「それは何とも云えぬ。――」
といっているところへ、警笛をプーッと吹き鳴らしつつ、紛失した大江山の自動車が帰って来た。課長は愕いて玄関へ走りだしたが、中からは意外にも、彼の連れていた運転手の怪訝な顔が現れた。
「自動車がございました。二百メートルばかり向うの畠の中に自動車の屋根のようなものが見えるので行ってみました。すると、愕いたことに、これが乗り捨ててあったのです」
「フーン」
と大江山は呻った。一体何者の仕業か。西一郎がやったのか、それとも例のポントスが現れたのか、或いはまたその辺を徘徊している筈の覆面探偵の仕業か。――一方、矢走千鳥は天に駆けたか地に潜ったか、杳として消息が入らなかった。
だが、矢走千鳥は無事に生きていた。彼女は多摩川を眼下に見下ろす、某病院の隔離病室のベッドの上で、院長の手厚い介抱をうけていた。
「もう大丈夫です。静かにしていれば、二三日で癒ります。身体にはどこにも傷がついていません。ただ駭きが大きかったので、すこし心臓が弱っています。あまり昂奮しないのがよろしい」