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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
「あったあった。こんなもの直ぐ明けられるじゃないか」
「明けても駄目です。或る仕掛がしてあるので、今夜九時にならないと、文字が出て来ません。今御覧になっても白紙ですよ」
チェッと雁金検事が舌打ちをした途端に、相手の受話機がガチャリと掛った。
その日の夕刻、丁度黄昏どきのこと、丸ノ内にある化物ビルといわれる廃墟になっている九階建てのビルディングの、その九階の一室で、前代未聞の奇妙な会見が行われていた。
まずその荒れはてた部屋の真中には足の曲った一脚の卓子があり、それを挿んで二人の人物が相対していた。
入口に遠い方にいる人物は紛れもなく覆面探偵の青竜王だったが、彼は椅子に腰をかけた儘、身体を椅子ごと太い麻縄でグルグルに締められていた。それに対する人物は、卓子を距てて立っていたが、その人物は頭の上から黒い布をスッポリ被っていた。そして右手には鋭い薄刃のナイフを構えて、イザといえば飛び掛ろうという勢いを示していた。――これが雁金検事に報告された青竜王と吸血鬼との会見なのであった。すると、黒い布を被った人物こそ、恐るべき殺人犯の吸血鬼なのであろう。
「案外智恵のない男だねえ――」