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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

警官隊は、倒れた卓子や、逃げ惑っているキャバレーの客たちを踏み越え掻き分けて、呻り声のする方へ近づいていった。が、また捲き起る混乱のために、その呻り声がどこかへ行ってしまった。

「どこにいるのだ、青竜王!」

「青竜王、声を出して下さーい!」

雁金検事たちは、大声で探偵の名を呼んだが、その応答は聞こえなかった。

「オーイ皆、ちょっと静かにせんかッ」

大江山課長が破れ鐘のような声で呶鳴った。

その声が皆の耳に達したものか、一座はシーンとした。

「オイ、青竜王、どこにいるのだッ」

検事は暗黒の中に再び呼んだ。――

だが、誰も応えるものはなかった。一同は闇の中に高く動悸のうつ銘々の心臓を感じた。

(どうしたのだろう?)

そのとき正面と思われる方向の闇の中から軽い口笛の音が聞えだした。

「あたしの大好きな

真紅な苺の実

とうとう見付かった

おお――

あなたの胸の中……」

ああ、いま流行の『赤い苺の実』の歌だ。竜宮劇場のプリ・マドンナ赤星ジュリアの得意の歌だった。――

「こら、誰だ。――」と大江山課長は叫んだ。「こんなときに呑気に口笛を吹く奴は、あとで厳罰に処するぞ」

呑気な口笛――と捜査課長は云ったけれど、それは決して呑気とは響かなかった。