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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
断片だけでは分らなかった。
「これ、何ですか。とにかく、わたくしのでは有りません」
ポントスは腑に落ちぬ顔をして、紙片を青竜王に返した。
「もう一つ、お尋ねしますが、赤星ジュリアは昨夜ここへ来たのが始めてですか」
「いえ、たびたび来て、歌わせました。もう七、八回も頼みました」
「たいへん御贔屓のようですね」
「そうです。ジュリア歌う――お客さま悦びます。わたくしも悦びます。なかなかよい金儲けできますから、はッはッはッ」
ポントスは露骨な笑いを残して出てゆくと、大江山捜査課長は青竜王の腕をムズと捉えた。
「いまの建築図のようなものを出し給え。君はそれを何時の間にどこから手に入れたんだい」
青竜王は課長の手を静かに払いながら、
「これですか。これを御存知なかったんですネ。なアに、痣蟹の裂けた洋服の裏に縫いつけてあったんですよ」と事もなげに云うと、その紙片を恭しく差し出しながら「では確かに貴方様にお手渡しいたしますよ」
不可解なる紙片! 一体それはいかなる秘密を物語るものであろうか。
消えた屍体
何のためか十日間あまり、事務所を留守にしていた青竜王は、キャバレー・エトワール事件の次の日の昼ごろ、ブラリと探偵事務所に姿を現わしたのだった。