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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

「早く出ていってよ。もう用事はない筈よ」

「うんにゃ、こっちはまだ大有りだ」と憎々しげに頤をしゃくり「貰いたいものを貰ってゆかねば、日本へ帰ってきた甲斐がねえや。――」

「男らしくもない。――」

「ヘン何とでも云え。まず第一におれの欲しいのはこれだア。――」

痣蟹はジリジリとジュリアに近づくと、彼女が頸にかけた大きいメタルのついた頸飾りに手をかけ、ヤッと引きむしった。糸が切れて、珠がバラバラと床の上に散った。痣蟹はそれには気も止めず、メタルを掌にとって器用にも片手でその裏を開いた。中からは何やら小さい文字を書きこんだ紙片がでてきた。痣蟹はニッコリと笑い、

「やっぱり俺のものになったね。――」

「出ておゆき。ぐずぐずしていると人が来るよ」

「どっこい。もう一つ貰いたいものが残っているのだ。うぬッ――」

痣蟹はピストルを捨てると、猛虎のように身を躍らせてジュリアに迫った。その太い手首が、ジュリアの咽喉部をギュッと絞めつけようとする。

「アレッ――」

と叫ぶ声の下に、化粧鏡がうしろに圧されて窓硝子に当り、ガラガラと物凄い音をたてて壊れた。

その途端だった。入口の扉をドンと蹴破って、飛びこんで来た一人の、青年――