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おんじん

恩人

豊島 与志雄

「帝国文学」1914(大正3)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,268 字 · 27 页

青空文庫

」

「そうだね。病気と云っても僕のはまだ自分でそう悪くは感じないんだから。」

「私なんかも、少し身体の加減がよくない時には妙に引き込み思案になりますが、平素はあまり先へ先へと急ぎすぎて、何にも掴まないうちに凡てを通り越すんじゃないかとよく思います。」

「それでいいんだろう。」と一寸叔父は言葉をとぎらして、また言葉をついだ。「君の家へ来てから特に僕はそう思うよ、君の生活と僕の生活とが余りにかけ距っているというようなことをね。何しろ君の家には若い者ばかりなんだからね。」

「何かお気を悪くなさるようなことはありませんでしたか。」

「君もよほど神経過敏の方だね。」と叔父は笑った。

「でも何だか当が外れたというような御不満がありませんでしたか。」

「少しは……そう云えばそんな感じもあるね。」

「あなたは私達の恩人だと思っていますから……。」

「僕はもうそんなことは考えてなんぞ居ないよ。」と突然叔父が遮った。

「いえ、私はいつかほんとに心から叔父さんに感謝したいと思っていました。そしてまた、叔父さんの生活が非常に崇高なもののように思えますので、いつかゆっくり御話がしてみたいと思っていたのです。