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あくまのせいだん
悪魔の聖壇
平林 初之輔
「令女界 第六巻第一号」宝文館、1927(昭和2)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,931 字 · 10 页
彼女の鼓動を私の胸に感じました。叙述がクライマックスにはいると、私たちは頬がすれすれになるところまで顔を寄せて思わず手を握りあっていたのでした」
「だけど牧師様、世の中はままならぬものであります。私たちの、こうした美しい幸福な愛の世界も長くはつづきませんでした。ある日民子は悲しそうな様子をして私の病室へはいってきました。彼女は何か胸にたえられぬ心配がある様子で、何か言いたそうにしては口籠もっていましたが、とうとう、はずかしそうに懐から写真を一枚とりだして私の枕元におきながら、しばらく東京へ行くことになったから、とうぶん会えないが身体を丈夫にしてくれ、記念にこの写真を受け取ってくれということを言いきってしまうと、いきなり、袂を顔にあてて泣いてしまいました。私の眼にもいっぱい涙がたまりました。それっきり二人はわかれてしまったのです」
「それから先、明けては暮れてゆく病院の月日がどんなに私にさびしかったか、牧師様お察し下さい。ただ一枚の写真だけが私の生命の緒だったのです。私はそれを枕の下においてみたり、懐に抱きしめてみたり、まるで生きた恋人にするように接吻してみたりして、長い長い一日々々を送っていたのでした。