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かなしいごかい
悲しい誤解
豊島 与志雄
「女性改造」1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,139 字 · 23 页
何とも口が利けなかった。
彼女は私のそばに、寄り添って屈み、私の肩に身をもたせかけた。
「明日にでも、また来てね。今晩はだめだけれど……いつだっていいわ。ね、どこかに連れていって。旅行したいわ。」
いったい、何を言ってるのか。何を考えてるのか。私は薄暗い中に眼を見張って、彼女の方を顧みると、彼女はにこりともせず、真剣な面持ちだ。
「でも、悪いかしら。あなたには、奥さまもあるのでしょう。あたしはかまわないけれど……。いいわ、あなたを信じます。あたしも信じてね。」
何ということだろう。私は自分をも、彼女をも、殴りつけ踏みにじりたかった。
彼女の体温が心に蘇ってきた。然し、それは誰の体温でもよかったのだ。彼女の体温とは限らないのだった。ただ然し、孤愁の底に沈んでる心の思いを打ち明けるのには、彼女が最も恰好な相手だったろう。あのようなことを、誰に向ってよく言えたであろうか。妻にも、みさ子にも、姉にも、男性には勿論、会社のタイピストにも、そのへんのパンパンにも、言えるものではない。言えばばからしくなるばかりだ。それを、さよ子には泣きながら言えた。酔いつぶれていたから、なんかではない。