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かなしめるこころ

悲しめる心

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,423 字 · 33 页

青空文庫

その持主と一緒に此世から消えたので有ろうか。

顔が真黒に鼻が欠けた可愛そうな首人形はどこに居るんだろう。

出て来て呉れる気はないかい。

彼の若死にをした妹のおかたみになってくれる気はないかい。

何か戸棚を見つけものをしたり、古い箱を開けたりする毎に小さい情ないおかたみの見つかる事を希って居る。

口が自由に動かないで「ほおずき」が鳴らせないで居た彼の妹は赤いゴムの「ほおずき」を只しゃぶって居た。今私は豆や「なす」やのほおずきを気ままに鳴らして居るにつけせめてほおずき位ならせたらと思って居る。悲しみがどこか心のそこに巣喰うて居ると何か事があるたびにそれが動き出して来る。

私のを縫いなおしたんで赤い縮緬の綿入が今日フト箪笥の中に見えた。

今年のお正月には間に会わなかったから来年はきっときせてやると云って居たのも無駄になった。

この次又あれを着せてもらう妹は出来ないだろう。誰にやったらよかろう。

着られるのを大変たのしんで居たのに。

妹のなくなる時の熱は四十二度だった。

四十度少しの熱で人事不省になった私の事を思えば命をとられるのも無理はない熱である。お腹が悪いばっかりにそんな熱が出ようとも思われないほどだ。