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ひがんについて

悲願に就て

坂口 安吾

――「文芸」の作品批評に関聯して――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,329 字 · 17 页

青空文庫

。彼の日本文学の教養とその甚しい日本趣味とのため、人々は多く彼の懊悩の世界まで古臭いように考えがちであるが、彼の懊悩の世界は全く我々の時代まではなかったところのものである。彼の書く主人公は惚れないうちから諦めているというような、然しそんな尤もらしい恋愛事情なぞとは無関係に、もともと恐ろしい孤独感の中にいる。去年「紀元」に発表した「鋸の音貧し」という作品の中で、主人公は隣の部屋から洩れてくる愛すべき若夫婦者のなんでもない話声をきいているうちに、むろんそれが原因ではないが、急にふらふら立ち上り、縄を吊してどうやらもぞもぞと首をくくろうとしはじめる。どうも読んでいてその重苦しい漠然たる人生苦がやりきれなくなるのだった。ところが今年の「紀元」新年号に書いた「山茶花の庭」で、これも惚れないうちから諦めていた一人の娘との別れに自作の白粉を餞別しようと思って、自分ではその壺へ「長相思、思ひ何ぞ長き――」というような詩をひとつ気取って焼きこんでやろうと思っているうちに、ついなんとなく焼きこんだのが「古井戸や蚊に飛ぶ魚の音暗し」という蕪村の句である。その壺を見た友人達が、壺をひねくりながら、どうもこの壺は露骨で厭味ですねと会話をしているあたり、全くやりきれない暗い鬼気に打たれざるを得ない。