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あいのために

愛の為めに

甲賀 三郎

「探偵文藝 第2巻第4号」奎運社、1926(大正15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,919 字 · 24 页

青空文庫

夫の子だと思えば私自分の子のように愛せるわ。私何遍か夫にその事を云おうと思った。だって、余りよく似ているんだもの。でも流石にそうとは云い兼ねて、一度冗談のように、宅の子にしようかと云ったら、すぐ馬鹿と叱られて終った。でも女と云うものはしようのないもの、私はまだ迷っていたわ。

間もなく夫の病気、大熱が続いたので、お父さんの事や、私の事や、随分いろいろと囈言見たいな事を云った。私は心配でおろおろしながらも、それでももしや夫が赤ン坊の秘密でも云いはしないかと、ほんとうに我ながら気の狭いのにあきれる、聞耳を立た事だった。けれども赤ン坊の事は気が確な時に二度許り、早く親の手に返えしたいと云った切り。人と云うものはこんな時に嘘の云えるものじゃない。自分の子なら心配してなんとか云うに違いない。私ほんとに疑るなんて済まない事をした。赤ちゃんは夫の子でもなんでもありゃしない。他の赤ちゃんなんだ。

こう分ると、何だか張りつめた気がガッカリした。赤ン坊は可愛くて可愛くて、それに私によく馴染んで、離すのは嫌だけれども、いつまでもこうしてはいられない。早く親の手に返さなければならないし、夫は病気だし、どうしたら好いだろう。