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あいよあい

愛よ、愛

岡本 かの子

岡本かの子『愛よ、愛』。同一底本的分册已合并为一书。收入:愛よ愛、現代若き女性気質集、女性の不平とよろこび、時代色、異性に対する感覚を洗練せよ、女性崇拝、山茶花、桃のある風景、病房にたわむ花、異国食餌抄、巴里の秋、売春婦リゼット、巴里のむす子へ、新時代女性問答、家庭愛増進術、良人教育十四種、岡本一平論、かの女の朝。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,138 字 · 99 页

青空文庫

そのせいか逸作も太陽が好きだ。何処といって無駄な線のない顔面の初老に近い眼尻の微かな皺の奥までたっぷり太陽の光を吸っている。風が裾をあおって行こうと、自転車が、人が、犬が擦り抜けて通って行こうと、逸作は頓着なしにぬけぬけと佇って居る。これを、宇宙を小馬鹿にした形と、かの女は内心で評して居る。

――もう宜いのかい。

逸作の平静な声調は木の葉のそよぎと同じである。「死の様に静だ」と曾て逸作を評したかの女の友人があった。その友人は、かの女を同情するような羨むような口調で言った。だが、かの女はそれはまだ逸作に対する表面の批評だと思った。逸作の静寂は死魂の静寂ではない。仮りに機械に喩えると此の機械は、一個所、非常に精鋭な部分があり、あとは使用を閑却されていると言って宜い。無口で鈍重な逸作が、対社会的な画作に傑出して居るのは、その部分が機敏に働く職能の現れだからである。逸作のこの部分の働きの原動力、それはあるときは画業に対しある時はかの女に対する愛であると云うよりほかない。そしてある時は画業に対しある時はかの女に対してその逸作の非常に精鋭な部分が機敏に働いているのである。