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かんしょうしゅぎ

感傷主義

辰野 隆

X君とX夫人

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,896 字 · 8 页

青空文庫

という質問に事寄せて、彼女の焦慮とアンニュイとを仄めかした。この質問に対して、マキシミリヤンは極めて穏やかな諷刺的な実話を以て答えるが、その答えがこの短篇の骨子なのである。マキシミリヤンが言う。

――リュシエンヌよ、私は或る声楽家を知っていた。彼が許嫁の死の床に侍して、その臨終に立合った時、傍らに、彼の許嫁の妹が身を慄わせ、声をあげて泣きむせぶのを聴きつつ、彼は心から許嫁の死を悲しみながらも、許嫁の妹の涕泣に発声法上の欠陥のある事に気付いて、その涕泣に迫力を添えるには、適度の訓練を必要とするのではなかろうか。と不図考えたのであった。而もこの声楽家は許嫁との死別の悲しみに堪えずしてそしてその後間もなく死んでしまったが、許嫁の妹は、世間の掟に従って、忌の果てには、心置きなく喪服を脱いだのであった。

マキシミリヤンの実話にちなんだ答えは、リュシエンヌの心を慰めずに、却って愈々不安をつのらせた。彼女は遂に覚悟をきめて、分れ話をきり出したが、而も彼女の気紛れから、ド・ロスタンジュという貴族に心を惹かれて、今宵は会合の約束までしてしまった、と告げる。マキシミリヤンは之を聞いて、悲痛な思いをするが、表面は至極冷静に女の申出を甘受した。