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かんかくとかがく

感覚と科学

寺田 寅彦

「科学」1933(昭和8)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,836 字 · 4 页

青空文庫

を識別し、贋造紙幣を「発見」する。しかし、物の表面の「粗度」の物理的研究はまだ揺籃時代を過ぎない。これほどに有力な感官の分析総合能力が捨てて顧みられない一つの理由は、その与えるデータが数量的でないためである。しかし、数量的のデータを与える事が必ずしも不可能とは思われない。適当なスケールさえ作ればこれは可能になる。たとえばピアノの鍵盤や、オストワルドの色見本は、言わばそういう方向への最初の試歩である。金相学上の顕微鏡写真帳も、そういうスケールを作るための素材の堆積であるとも言われよう、もし、あの複雑な模様を調和分析にかけた上で、これにさらに統計的分析を加えれば、系統的な分類に基づくスケールを設定することも、少なくも原理的には可能である。これにやや近いものを求めれば、指紋鑑別のスケールのごときものがそれである。「あたわざるにあらず、成さざるなり」と言ってもさしつかえはないであろう。

それはとにかく、感官のもう一つの弱点は、個人個人による多少の差別の存在である。しかし、われわれは「考える器械」としての個人性を科学の上に認めている。「見る器械」、「聞く器械」