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つきもの
憑きもの
豊島 与志雄
「改造文芸」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,983 字 · 27 页
別居、離別とまではゆかなくとも、せめて別居。――その決心が蘇ってきた。もとより、秋子に対してのことではない。酒に対してのことだ。平たく言えば、酒と同居するほど常住には飲まず、さりとて離別するほど禁酒はせず、別居という程度に節酒するという、甚だ頼りない次第であり、実はまた最も困難な次第でもあった。
考えてみれば、もともと酒好きではあったが、斯くも酒飲みになったのは、どうやら、自分の才能を発見してからのことらしい。カストリ雑誌とか何とか言われて、世間にもてはやされる有力誌の、いやしくも編輯者たるものは、須らくカストリぐらいは飲まざる可らず、などと言っているうちはさほどでもなかった。ところが、その編輯者たる自分のうちに、優秀な執筆者の才能を発見するに及んで、事態は進展してきた。この優秀な執筆者の才能なるものが、頗る妙なもので、第一には、悪文を綴ることだ。すべて名文というものは、なだらかで滑っこく、手の捉まりどころもなく、足の踏みしめどころもないが、悪文となれば、至る所に瓦礫があり刺があり凸凹があり、ひっかかるとこばかりで、読書慾を充分に満足させるのである。