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わがじんせいかん
我が人生観
08 (八)安吾風流譚
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,617 字 · 23 页
とても上の径まで登る力はないと生還をあきらめていたのであったが、精根が戻ってくると浮世の才覚も戻ってきて、ナニ、上の径まで登らなくッとも、谷川ほど確実な径はない。山の径はたまたま自然消滅して人里へ通じてくれない場合があるが、谷川というものは、必ず人里へ通じるものである。これぐらい確かな道はない。おまけに谷川を渉りつつ、目を皿にして対岸を吟味して行けば、丸木橋のかかっていた径の跡を発見することができるだろう、と判断がついたのである。そして、勇をふるッて岩と岩の中から身を起し、ついに、とっぷり暮れようとする寸前に山小屋へ辿りつくことができたのである。翌朝、目を覚すと、私の全身はいたるところ大きなコブをつけたように腫れあがり、殆ど身動きもできなかった。砂糖や塩や味噌は原形を失い、ドロドロになっていたが、それらが私の一命を助けてくれたものとして、なんとも有難く、いじらしく見えた。一日二日は身動きできず、そのドロドロをなめながら、ケダモノの穴ゴモリのような気持で一陽来復を待っていたのであった。
私は、しかし、この小屋に長くはとどまらなかった。ちょうど、この豪雨で、小屋のうしろの崖がくずれて、小屋に異常はなかったが、便所だけつぶれてしまった。