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〈わがあいするしじんのでんき〉(ほい)

〈我が愛する詩人の伝記〉(補遺)

室生 犀星

「婦人公論 第四十三巻第五号」1958(昭和33)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,167 字 · 22 页

青空文庫

私なら遺言なんて冗らない物は書かずに、ムスコとムスメが、お互に掻っさらうために詰めよるのを、いまから愉しげに見て置きたかった。一晩でも奥さんという名で抱いたひとを、遺言で区別することは文学者のすることではない、しかも周子夫人は五年ももっと永く一緒にいられたのだ。私が萩原朔太郎の稿で書いた例のハンド・バッグでも買おうかといって、萩原から叱られたほどの人が萩原が死んだあとでは、こういう目にあわなければならなかったのだ、そして最後に生きのこった私がぶつぶつ小言をこの原稿の中に書きのこし、皆さんにこれはどういう訳のものでしょうか、人間はこうあっていいものでしょうかと愬えたいのだが、男は寝るときだけ女を愛しているのでしょうか、この恐ろしいしかも嘘でない真実であるにしても、この一つのことがらを叩きのめしてかからなければ、世界のごたごたを修繕することが出来ないのだ、寝たあとの後始末をしろ、ゆめとか、けむりに似たものであるための、それであるための後始末をしろと私は私自身にも、みんなの人に言いたかったのだ。

若い周子夫人は佐藤家を去り、いまは萩原朔太郎の令妹のもとで暮していられる、詩人惣之助夫人であったということすら、ゆめのようなはなしでありその著作の印税は勿論はいる訳のものではない、私は本伝記を書きながらついに彼女と惣之助