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〈わがあいするしじんのでんき〉(ほい)
〈我が愛する詩人の伝記〉(補遺)
室生 犀星
「婦人公論 第四十三巻第五号」1958(昭和33)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,167 字 · 22 页
佐藤はちょっとした事にも、いち早く感動してすぐそれを言葉に現わしていう男である。或る日本料理屋で飯を食っている最中に、彼は私の箸づかいを見て言った。
「君は加賀藩のサムライだなあ、サムライの子だなあ、箸を逆につかってお膳の外側に箸の先を出している。」
「お膳の中に箸を置けばお膳がよごれるからだ。」
「そこがサムライだというんだよ、おれも以後それにならおう。」
川崎町の脇本陣の次男坊であり、あんちゃんであり惣さんであり、義太夫、浄瑠璃何でもござれのしゃれ者である彼は、なにかの弾みにサムライという言葉をよくつかった。祖先の敬まいが彼のふだんの言葉につい現われるという見方は無理であろうか。
詩人仲間の宴会があると人の悪い連中は佐藤をおだて上げ、君、何か一つ演ってくれんかというと、いや、きょうはだめだよ、芸人扱いにしてくれるのは止してくれと手を振って断ったが、次第に席が乱れて来てお酌の女達がしつこくせがむと、突然、彼は自分の出場が避けられないことを覚ると、今までのあぐらを正座に直して、手を膝の上にきちんと置いて、でれん、でんでんと口拍子を取ると、「あなた様にはよう分りやさんすのに、わたしが分らん顔をしているのには、深いわけがあっての事……」