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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

如何に心に鞭を打ち、居住いを正して気を引緊めても、一旦緩んだ亢奮はただもう弛緩するばかりである。ゆき子は、足がかりもない砂山の中途から、ずるずるずるずると不可抗力で谷底までずり落ちるような恐怖に打たれた。捉まろうにも物がない。縋り付く者もいない! 彼女は恐ろしさに堪りかねて、泣きそうになりながらペンを捨ててしまった。

「!……」

今日まで半年の間、ゆき子はこの恐ろしい失望に面して来たのだ。「精神が稀薄なのか。持ち越す精力が足りないのか? 結婚するまでは、なかったことだ。自分は真木を得ると一緒に、この致命的な悪癖とまで婚姻してしまったのだろうか」特に、その朝は、前触れの気持が素晴らしかっただけ、希望が大きかっただけ、彼女の顛落は堪え難いものであった。

苦しさに充血したような彼女の眼前には、最も無表情な瞬間の真木の顔が、この上ない煩しさで浮んで、消えた。隣からは、ふざけ散した女の笑声がする――ゆき子は、今にも体がブスッ! と煙を立ててはち切れそうな自暴を感じた。

瞳には漠然と、昼近い何処やら厨房の匂のする日向の外景を見つめながら、彼女の暗くなった頭のうちでは嵐のように自分の結婚生活に対する疑が渦を巻いた。