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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

「あんまりうまくも行かないわ。――でもね」母の心持を思いやって、ゆき子は強いても張のある声を出そうとした。

「余り心配なさらないで頂戴よ。今によくなるから……あんまり傍で気を揉まれると、却ってまごついてしまうわ」

「それはそうだとも――気なんか揉みはしないがね」

そう云っても、ゆき子は、母の沈んで行く表情を見逃すことが出来なかった。

「どうせ落付いて一年も経たなければ、仕事なんか到底纏まるまいとは思っていますよ。ゆきちゃんは、私なんかより余程男らしいようでいて、また、しんから、女のところがあるものね」

「それはそうかもしれないわね」

「そうだとも……とにかく、何だね、今のような調子で行ったんじゃあ、一年経とうが二年経とうが、到底仕事なんかはおぼつかないね」

寿賀子の顔には、急に何ともいわれない自棄的な色が現れた。何が原因となったのかは分らないが、彼女は、これ等の言葉をまるで昨夜一晩じゅう思いつづけていたに違いないような確かさと、冷かさとで云い切ったのである。

思わず母の顔を見、ゆき子は、胸を貫かれる思いがした。

今の今まで、彼女は自分ではその怖ろしい想像に怯え抜いていたのではないか。